愚安亭遊佐(ぐあんていゆうざ)
愚安亭遊佐(ぐあんていゆうざ):劇評
 

劇評

▼2008年11月4日(火):北海道新聞夕刊

▼2008年8月6日(水):北海道新聞 夕刊

2008年8月6日北海道新聞・夕刊 下北弁の一人芝居を演じ続けて二十年以上になる愚安亭遊佐(ぐあんていゆうざ)が、病気を克服し、久しぶりに道内での本格ツアーで元気な姿を見せている。今回は、父親をモデルとした「百年語り」、母親をモデルにした「人生一発勝負」、原発に揺れる青森県六ヶ所村の漁師たちを描いた「こころに海をもつ男」の、いわゆる下北三部作すべてを演じる。

 このうち「百年語り」は、飢饉(ききん)が続く1905年(明治38年)、故郷の八戸を捨てて本州の北の果て、下北半島の関根浜(現在のむつ市)に最初に住んだ一家の物語。

 兄弟で一番年上になってしまった四男の亀二(遊佐の父親)は十歳の時、父親の「漁師に学問はいらねえ」の一言で学校をやめさせられ、漁師になる。イワシの群れが去ったあとはイカ釣りで、さらにブリの定置網で、工夫を凝らして暮らしを守る亀二。網元にまでなるが、戦争で、原子力船「むつ」の母港建設問題で、浜は時代の波にもまれ続ける。

 場面ごとに遊佐は、その表情と動きで、子供、青年、古老に見事に化けて笑いを誘う。「オスコイ、オスコイ」の掛け声とともに櫓(ろ)をこぎ、腰を入れて地引き網を引く。乾燥して丸まったスルメイカは、両手にツバを吐きつつ、力強く伸ばしていく。その所作は”労働歌”のようだ。

 亀二の息子が発動機を積んだ「機械船」で沖へ繰り出すようになると、亀二は「漁業は産業になった。魚は商品になった」と叫ぶ。その辺りで労働歌の味わいはうせていく。

 芝居の始めと終わりに、十六ミリモノクロフィルムで1984年当時の関根浜の姿が流れる。現役時代の原子力船「むつ」の巨艦も写り込んでいる。そこからも、はや四半世紀がたとうとしている。

 押しつけがましくなく、今という時代は・・・を考えさせてくれる。そんなひとり芝居だ。(土屋孝浩)

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愚安亭遊佐(ぐあんていゆうざ)公式ホームページ